クロニック・ラヴ

終わりの会(永田希・迫田容満),2009,『クロニック・ラヴ』.
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『クロニック・ラヴ』は藤城嘘が表紙を描いた同人誌で、一輪社から送られてきた同人誌だ。読む前に抱いていた情報はそのようなもので、肝心の中身についてはまったく知らなかった。そういう事情もあって、私はこの本の読者ではないと思うが、本を手にした。
面白かったところについてだけ書こう。まず、表紙と裏表紙は連続した1枚の絵になっている。しかし、表紙の前にトレス用紙のようなものが1枚被せられてホチキスで中綴じされているため、それが邪魔して1枚の絵として見ることが難しくなっている。これはいいのか悪いのかわからない。悪いと思うならトレス用紙を破り取ってしまえばいい気もする。トレス用紙はすぐにくるんくるんになってくるので見た目が汚くなる。花原史樹のZINEの表紙にはティッシュが同じ要領でホチキス止めされていたことを思い出した。花原のZINEにおけるティッシュは内容とも関係が深く意味がある。
最も良かったのは朝霞軒行の小説「ホリゾンタル・ラヴ」のページだ。文章は2段組みになっていて黒字、背景に海辺が青で印刷されている。この背景の青は濃い青であり、その上に文字が重なっているため小説は大変に読みづらくなっている。読む気がしないし、読ませる気もないのだろう。
私は確か、眠いときにこの本を開いた。表紙を見て、裏表紙を見て、ページを捲り、頭の「サーバーパンクとは何か」を読んで苦手な語り口だなと思った。そのあとはぱらぱら見た。「ホリゾンタル・ラヴ」のページがいいのは、“雑誌記事の文章なんて誰も読まない”ということを利用しているところ。それと、それが、眠いときになにかをする感じを作っているところ。

(普段から小説をほとんど読まない私が)どこの誰だか知らない誰かが書いた小説なんてまじめに読むほうがどうかしてるし、間違って読んでしまうことのないように青い波で潰してくれている。そのことに興味を引かれて、むりやり読んでみるとなにが書いてあるか途中でわからなくなり、もともと読む気がないからわからないこともそんなに気にならないし、眠い、眠いし文章もまじめに読まなくていいと言ってくれている。
“この作品を見たとき眠かったので”というような前置きで感想を述べると気を悪くする作家が多いのだろうな、親しい作家とそういう話をした。私はとても眠いときに聴く音楽が好きだ。
眠かっただけではなく、そのときは珍しくビールを飲んでいた。そのままこたつで寝て。起きてビールの缶を取り損ねて、こたつと座布団と『クロニック・ラヴ』が黒ビールでびしょびしょになった。